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政治学は男中心。『女性のいない民主主義』の感想。

本と文字

本日は、前田健太郎著『女性のいない民主主義』を紹介します。政治の世界には女性が少ないといわれますが、実は、政治学という学問の世界も女性の視点が無視されているというのです。この本は新書であるため、政治学についてあまりわからないという方も楽しむことができます。ぜひ、手に取ってみてください。

こんな人におすすめ

  • 政治学を新たな視点で楽しみたい人
    →政治学の定説を、異なる角度で論じています。普段から政治学に慣れ親しんでいる方にとっては、興味深い論調に感じられると思います。
  • フェミニズムに興味のある人
    →著者は「フェミニズムもあらゆる政治現象を説明する論理を持っている」と述べています。フェミニズム側の方は、是非、手に取ってみて下さい。
  • 政治学をはじめて学ぶ人
    →この本は、主流派の政治学の理論をわかりやすく説明したうえで、ジェンダー的視点でそれらを批判します。政治学の理論を批判的に学ぶこともできます。

ポリティ指標とポリアーキー指標

吹き出し

本書の題名には「民主主義」という文言が入っていますので、まずは、「民主主義」に関することを取り上げます。皆さん、ポリアーキーという言葉を聞いたことがありますか。私は、政治学の入門書でその内容を知りました。ポリアーキー≒民主主義体制であり、それには、「参加」と「異議申し立て」の2要素で構成されています。

そのポリアーキーの成熟度の指標が「ポリアーキー指標」です。本書によると、ポリアーキー指標が5つの指標が合成されていて、0~1の値とをとるということです。日本の値を見てみると、この指標は女性の政治参加というのも重視されるため、1945年までの指標は0.2以下と、ほぼ一定です。一方、女性参政権が認められると、いっきに0.8強まで上がりました。ただ、参政権が認められても、選挙の候補者に占める女性の割合は低いままです。とりわけ政治の世界において、女性の参画も進んでいません。私は、民主主義において多元主義というものも重要だと考えますので、現在の状況は、率直に言って「ゆゆしい」の一言です。

一方、「ポリティ指標」というものもあります。この指標も民主化の程度を測るもので、-10~+10であらわされます(ポリアーキーに通ずるところもある)。それによると、幕末は-10でしたが、明治維新後に+1に、敗戦後は、+10に上がっています。女性参政権についてはあまり考慮されていない指標です。

2つの指標の違いは、明治維新・大正デモクラシーが評価されているか否かです。ポリアーキー指標はそれらがあまり評価しなかった一方、ポリティ指標は大きく評価しています。著者は次のように評価しています。

このようにポリティ指標に基づく民主主義の分類は、女性参政権を最低限の条件とするポリアーキの概念とは大きく異なっている。ポリアーキーの概念そのものは政治学者の間でも広く受け入れられたが、それを実際に現実の事例に当てはまる際には、その精神は受け継がれなかったのである。

『女性のいない民主主義』p. 81

政治の世界だけでなく、政治学という学問の世界も女性を蚊帳の外に追い出していたということがわかります。女性のいない政治の世界に合わせて、政治学という学問の世界も追随してきたのでしょう。まさに、タイトル通り、現実政治も政治学の考え方も「女性のいない民主主義」だったということになります。

ジェンダー・クオータは必要か

why

私は、本書を読むまで、ジェンダー・クォーターの必要性を理解していませんでした。なぜなら、女性にも参政権がありますし、ひいては、被選挙権もあるからです。選挙に出たい女性が自由に立候補すればよいじゃないかと考えていました。また、ジェンダー・クオターは男性を薄遇する制度とも考えていました。しかし、この本を読んで、私は愚かな考えをしていたと悟りました。

では、ジェンダー・クオータはなぜ必要なのか。それは、女性は選挙にあまり立候補しないという点です(著者によると、立候補をした女性は段戦と互角に戦えるようだ)。「女は女らしく振舞え、女は家事を優先せよ」というジェンダー規範があるからです。立候補しないというより立候補できないというほうが正しいのかもしれません。

最近は、障害を持つ国会議員が当選し、実際に、政治ひいては社会に大きな影響を与えてきました。同じように、女性の議員が増えると社会に変革を起こすと思います。男性中心の福祉政策や社会保障が大きく変わるでしょう。女性の社会進出も進むでしょう。少子化に待ったをかけるかもしれません。女性は社会において、マジョリティです。政治は女性の声を無視してはなりません

最後に

最後に、日本共産党の党員の方々が憤りそうな内容が書かれていたので、紹介します。

2017年の総選挙において、候補者に占める女性の割合が18%だったのに対し、当選者に占める女性の割合は10%にとどまり、両者に乖離があるということを取り上げています。その理由として、著者は、「女性の候補者の割合の多い日本共産党が当選の見込みのない候補者を大量に擁立していることによる部分が大きい」と述べています。

これを共産党員が読んだら、怒ってしまいそうですよね(笑)。まあ、著者にとって、問題はそこではなく、選挙において女性の候補者が少ないということを問題としています。

予断を挟みましたが、本書は、政治学は男性中心であるということを見事に論証しています。当記事ではほとんど触れなかった「男性稼ぎ主モデル」の点も含めて、興味深い内容ですので、是非、『女性のいない民主主義』を手に取ってみてください。

  • この記事を書いた人

undecided

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