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オルデンバーグ著『サードプレイス』を読んだ感想

2020年4月27日

文字と本

レイ・オルデンバーグ著、忠平美幸訳『サードプレイス コミュニティの核になる「とびきり居心地よい場所」』を読みました。サードプレイスという言葉は日本でもよく聞きますが、「サードプレイス」を提唱したのは、この本の著者であるオルデンバーグです。

総ページ数500ページ弱と読み応えのある本でしたが、決して難解な本ではないため、すぐに読んでしまいました。

オルデンバーグはアメリカ在住であるため舞台はアメリカですが、日本の状況に当てはめて読むとよいと思います。共感できるところもあれば、文化の違いからちょっと違うだろうというところもあります。

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こんな人におすすめ

  • (とりわけ)都会暮らし、ベッドタウン暮らしをしている人
    →家、職場以外に居場所がない方はぜひ。一方で、もしかしたら、皆さんが通っている居酒屋はサードプレイスかも…。
  • サードプレイスという言葉をなんとなくしか知らない人
    →サードプレイスという言葉は世間で時々聞きますが、この本が「サードプレイス」という言葉を普及させました。よく誤解される方がいますが、単に「くつろげる場」がサードプレイスとは限りません。
  • 社会学・都市工学を勉強している人
    →オルデンバーグは社会学者として、現代アメリカの(郊外型)都市計画を批判しています。

サードプレイスとは

メモ

まず、サードプレイスについて記します。サードプレイスは、ファーストプレイス(家)セカンドプレイス(職場等)以外の、第三の場所のことです。オルデンバーグは、サードプレイス「とびきり居心地よい場所」などとも言っています。心を落ち着かせ、豊かにするという点において、サードプレイスや有用です。このサードプレイスについて、オルデンバーグは8つの特徴があると述べています。

  • 中立の領域で
    例えば、家庭内で、夫婦がずっと一緒に暮らしていたら、どうでしょうか。お互いが束縛されているような感じで、嫌じゃないですか。そんなときこそ、友達付き合いや多様な交流が必要でしょう。
  • サードプレイスは人を平等にするもの
    地位や身分、(今風に言うと)社会階級に関わりなく、多くの人々が交わることのできる場所がサードプレイスです。
  • 会話がおもな活動
    一番重要な点だと思います。オルデンバーグは、酒類が提供される居酒屋などを分析対象としていますが、サードプレイスは、飲むよりしゃべるというのが原則です。酔いつぶれるといったことは起こりません。
  • 利用しやすさと便宜
    いつでも訪れることができること、住居の近くにあるということが強調されています。なお、郊外型生活のアメリカにおいて、そのような場所はほとんどないことを、オルデンバーグは何度も指摘しています。
  • 常連
    例えば、居酒屋において隣客と間をあけて座る光景。恐らく、沈黙した嫌な空気が流れていますよね。これは、サードプレイスではありません。サードプレイスは常連客の会話によって生み出されます。
  • 目立たない場所
    店の外観を見てください。購買意欲を高める色を使った外観のお店は、サードプレイスになり得ません。
  • その雰囲気には遊び心がある
    会合のような、真面目腐った場所ではありません。サードプレイスは、遊び場という感じです。
  • もう一つのわが家
    サードプレイスは公的な場所ですが、家(ファーストプレイス、私的な場所)と同じくらい、もしくはそれ以上の居心地の良さを提供してくれます。

8つの特徴には入っていませんが、私が重要だと思ったことをさらに1点述べます。それは、「サードプレイスはたいてい男女別」であるということです。例えば、同性の友達通しで飲みに行った際に、1人だけ異性がいたらどうしますか。やはり、話す内容に気を付けてしまいますよね。そのような場所は、サードプレイスになり得ない可能性があります。

オルデンバーグは、飲食店(とりわけ居酒屋やコーヒーハウス)に焦点を当て、サードプレイスについて語っています。では、オルデンバーグの考え方にのっとり、飲食店などがサードプレイスか考えます。

ショッピングモールはサードプレイスなのか

イオンモール草津
私の住む滋賀の代表的なショッピングモールです

即答します、ショッピングモールはサードプレイスではありません。オルデンバーグは、「非場所」(non-place)とまでいっています。

かつて場所があったところに、今わたしたちが見出すのは<非場所>だ。本物の場所では、ヒトが人間である。彼または彼女は、ユニークな個性をもった一個の人間だ。非場所では、個性など意味がなく、人はたんなる顧客や買い物客、クライアントや患者、席に座る身体、請求書の宛先、駐車する車に過ぎない。非場所では、人は一個の人間であることも、そうなることもできない。個性は意味をなさないばかりか、妨げにもなるからだ。

『サードプレイス コミュニティの核になる「とびきり居心地よい場所」』p. 327

いかがでしょうか。私には、「非場所」という表現が、心に深く刺さりました。

アメリカでは、たいてい郊外に家があります。周りには、お店はありません。それ故、買い物に行くときは、でしか行くことのできないショッピングモールが目的地です。ショッピングモールは、同じような境遇の人々が多数集まります。群衆と化します。したがって、もちろん、固有名詞の関係性ではないのです。

これ、日本に通ずるところがありませんか。日本でも、ベッドタウン開発が進み、郊外で生活を営む人が増えました。ショッピングモールも、近年になって急激に増えてきました。一方で、人とのつながりを重視する地元商店は衰退していくばかりです。日本でも、心のよりどころを「消費生活」に移りつつあるのです。

居酒屋はサードプレイスなのか

居酒屋

少し難しい問いだと思います。まずは、オルデンバーグの考え方にのっとってみます。

飲み屋の良し悪しを判断するのに舌より耳を使うとき、居酒屋は三つのタイプに分かれるが、すべての根底にあるのは友情関係の幅だ。わたしはこの三つのタイプを「致命的な居酒屋」「BYOFの居酒屋」「サードプレイスの居酒屋」と呼ぶ。

『サードプレイス コミュニティの核になる「とびきり居心地よい場所」』p. 279

致命的な居酒屋」は、たいていショッピングモールや中心街にあります。中では沈黙した空気が張り詰めています。

BYOF(Bring Your Own Friends)の居酒屋」は、確かに、会話はあります。しかし、「BYOF」の意味を見てわかるように、あくまで各グループ内で会話が弾むのです。サードプレイスではありません。

サードプレイスの居酒屋」は、言うまでもなく、客どおし・常連どおしの会話が見られます。席の移動も見られます。上で記した、サードプレイスの特徴にも当てはまるでしょう。

友情関係の幅は、「致命的な居酒屋」が一番小さく、「サードプレイスの居酒屋」が一番大きいということになります。

それでは、日本の居酒屋について考えます。まず、日本の居酒屋の多くは、家の近くではなく職場の近くに位置します。仕事終わりに、職場近くの居酒屋に寄ってから、帰宅するという方が多いのではないでしょうか。オルデンバーグが述べていることと異なっていますが、これはアメリカと日本の文化の違いとして捉えましょう。基本的には、サードプレイスの特徴は踏襲してよいと思います。

さて、いかがでしょうか。日本では、「BYOFの居酒屋」が多いように感じますが、少なからず「サードプレイスの居酒屋」も存在するのではないでしょうか。

スターバックスはサードプレイスなのか

スターバックス
神戸北野異人館前店(写真ACより)。きれいなスタバですね。

最後に、日本のスターバックスについて考えます。先に私の考えを述べておきますと、スターバックスは、確かにサードプレイスの面も見られるが、完全なサードプレイスとは言い難いということになります。

本書では、古典的なコーヒーハウスがサードプレイスの例として挙げられています。これを読んで、喫茶店やカフェにおいて重要な点は、「くつろげる場」と「社交の場」の2つです。この2つがあれば、喫茶店やカフェは自然とサードプレイスになりうると私は考えます。以下、日本のスターバックスについて考えてきます。

まず「くつろげる場」について考えましょう。スターバックスは、お店の回転率を高めて、利潤最大化を追及しているようなお店でしょうか。この問いがすべてを物語ってくれますが、答えは「」です。スターバックスには、Wi-Fiやソファーなど、お客さんがゆっくりできるような環境があります。スターバックスでくつろぐことは容易にできます。ちなみに、ウィーンのコーヒーハウスには、新聞があるようで、一銭も払わずに読んでいく人もいるようです。新聞好きの私からすると、こんな店があればなあ、と思っています。

一方、「社交の場」についてですが、いかがでしょうか。残念ながら、日本のスターバックスは、社交の場ではないと思います。ご承知の通り、日本のスターバックスは一人の客が多いと思います。「おひとりさま」を楽しんでいるかのようです。それ故に、むしろ、騒々しいお客さんを注意してほしいと感じる人も多いのではないでしょうか。日本のスターバックスが「社交の場」にはなっていません。

最初に記したサードプレイスの特徴を見ればわかりますが、サードプレイスには常に他人がつきまといます。以上のようなことに鑑みると、確かに、スターバックスはサードプレイスといえる面も持ち合わせていますが、実際は、サードプレイスとはいえないと思います。

最後に

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オルデンバーグは、飲食店におけるサードプレイスを分析対象としていました。ただ、私は、飲食店以外でもサードプレイスを見出せる考えます。例えば、(私事で恐縮ですが)ラジオ体操会の会場もサードプレイスだと思います。8つの特徴を当てはめてください。ラジオ体操は6時30分からなので「利用しやすさと便宜」の一部は当てはまらないと思われますが、その他は見事に当てはまります。

特に、酒が苦手で居酒屋に行けないという方は、是非、飲食店以外で自分のサードプレイスを考えていただけるとよいと思います。

  • この記事を書いた人

未だ定まらざる

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