「琵琶湖の水止めたろか」
滋賀県民が、たびたび、京都や大阪の人たちに冗談で言う言葉です。
映画「翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~」でも琵琶湖の水を止めるシーンがでてきていました。
しかしながら、琵琶湖の水を止めることは本当に可能なのだろうか・・・?
滋賀県が琵琶湖の水を止めるにはどうすればよいなか、そもそも滋賀県に琵琶湖の水を止める権利があるのか・・・?疑問に思うでしょう。
また、仮に、琵琶湖の水を止められたとしたら、滋賀県はどうなるのか。
そうした事柄について、滋賀県民が詳しく解説いたします。
↓動画でも解説しています!
なぜ「琵琶湖の水を止める」?
まず、そもそも、なぜ、「琵琶湖の水止めたろか」という言い回しがあるのか。
滋賀県民は、なぜ、「琵琶湖の水止めたろか」という言葉を、琵琶湖の下流に住む京都府民や大阪府民に言うのか。
そうしたことを導入として、説明していきましょう。
京都や大阪は琵琶湖の水に依存している
琵琶湖は、瀬田川・宇治川・淀川と名前を変えて、最終的に大阪湾へと流れ出ていきます。京都や大阪は、琵琶湖の下流にあたる地域です。
それ故、琵琶湖は、生活用水や農業用水、工業用水として、水を京阪神地域に供給しています。京阪神地域の経済を支える重要な湖なのです。
琵琶湖の水は、京都府南部、大阪府のほぼ全域、兵庫県神戸市付近まで広く利用されています。
人数で示すと、約1400万人で、日本の人口の約1/10の人が琵琶湖の水を利用しているという計算になります。
このような意味で、琵琶湖は「近畿の水がめ」とも言われたりします。
「琵琶湖の水止めたろか」の使い方
前述のように、琵琶湖は京阪神地区を支える湖です。
このようなことから、滋賀県民が、京都や大阪、神戸の人と口論になったら、「琵琶湖の水止めたろか」と言ったりするのです。常套句になっているのです。
しかし、現実に、滋賀県民と京都府民・大阪府民が口論になって、滋賀県民が「琵琶湖の水止めたろか」と言っている場面を、私は見たことがありません。
メディアなどが、「滋賀県民 VS 京都府民・大阪府民」という構図をつくりたいときに、「琵琶湖の水止めたろか」という言葉を滋賀県民に言わせているようにしか思えません。
琵琶湖の水を止めるには
琵琶湖の水を止めるといわれても、どのように止めるのかわからないと思います。
壁を作らないと止められないと思っている方もいらっしゃると思います(実際には壁を作る必要はない)。
そこで、琵琶湖の水を止めるにはどうすればよいのか、滋賀県民が解説します。
琵琶湖の水を止めるには、基本的には3つの場所の水門を操作する必要があります。以下、詳しく見ていきます。
瀬田川
まずは何といっても、琵琶湖から流出する唯一の河川である瀬田川を止めなければなりません。
瀬田川は、京都では宇治川、大阪では淀川と名称が変わります。
瀬田川から淀川をまとめて、淀川という場合もあります。
瀬田川をせき止めるには、瀬田川洗堰を全て閉門する操作をする必要があります。
洗堰を全て閉門するだけですので、実際に、行うことができるのではないかと思われるかもしれません。
しかし、瀬田川洗堰を管理しているのは、滋賀県ではなく、国土交通省 近畿地方整備局 琵琶湖河川事務所です。
すなわち、国が管理をしているのです。よって、滋賀県の意思で、瀬田川洗堰を止めることは不可能です。
瀬田川洗堰では、最大で約800㎥/秒の水を放流できます。
大雨予報や下流の状況、また、琵琶湖の水位など、様々な事柄を考慮して、放流量を決定しています。
瀬田川洗堰
現在の洗堰は2代目で、1961年に完成。電動式の水門が10基あり、全長173mです。
付近には、初代の洗堰である南郷洗堰跡や治水対策で一部が切り取られた大日山、アクア琵琶や南郷水産センターがあります。
アクセス:石山駅から京阪バス「南郷洗堰」バス停下車
琵琶湖疎水
次は、琵琶湖疎水です。琵琶湖疎水は、河川ではありませんが、京都市中心部へ水を供給しています。
上の写真は、琵琶湖疎水(第一疎水)の水門ですが、何と閉鎖されています。ある意味で、琵琶湖の水を止めているということになります。
これは、定期点検のために、第一疎水の水門を閉鎖しているということになります。
このときも、第二疎水を通じて、琵琶湖の水は京都市中心部に送られています。
琵琶湖疎水は、約23㎥/秒の水を取水しています。
琵琶湖疎水を管理しているのは、滋賀県ではなく、京都市水道局となります。
よって、琵琶湖疎水も滋賀県の意思で、水門を勝手に閉鎖するということはできません。
琵琶湖疎水
琵琶湖疏水は1890年に完成。京都の近代化に大きく貢献しました。
大津側の第一疎水は、ソメイヨシノが植えられていて、地元では桜の名所としても名高いです。
アクセス(大津側):京阪大津線・三井寺駅下車
宇治発電所導水路
琵琶湖の水を止めるために、瀬田川は当然として、琵琶湖疎水も閉鎖せねばならないということを知っていた方は、かなりの”滋賀県通”だと思います。
しかし、もう一つ、忘れてはならない場所があります。それが、宇治発電所導水路です。
瀬田川の瀬田川洗堰の手前、右岸にて、琵琶湖の水を引き込んでいる水路こそが、宇治発電所導水路です。
水力発電で水を利用するため、瀬田川(瀬田川洗堰の手前)から引き込まれて、隧道にて山を越え、宇治市(平等院付近)で宇治川に合流します。
宇治発電所導水路は、約55㎥/秒の水を取水できます。
管理をしているのは、ここも滋賀県ではありません。発電事業となりますので、関西電力が管理をしています。
琵琶湖疎水
宇治発電所は、1913年に完成しました。非常に歴史のある水路式水力発電施設といえます。
宇治発電所建設のためにつくられた会社は宇治川電気。滋賀の発電事業なども傘下に入れていきましたので、宇治川電気について聞いたこがあるという滋賀県民は少なくないでしょう。
アクセス(大津側):石山駅から京阪バス「南郷洗堰」バス停下車
ここまでのまとめ
琵琶湖の水を止めるために、操作をせねばならない水門は、それぞれ、下記の団体が管理しています。
- 瀬田川洗堰:国土交通省 近畿地方整備局 琵琶湖河川事務所
- 琵琶湖疎水:京都市水道局
- 宇治発電所導水路:関西電力
したがって、滋賀県は、瀬田川洗堰・琵琶湖疎水・宇治発電導水路ともに、管理をしていないということになります。
つまり、滋賀県の意思で、琵琶湖の水を止めることはできないということになってしまいます。
もし琵琶湖の水を止めたら…
琵琶湖の水は、滋賀県の意思で止めることはできないということを確認してきました。
それでは、以下のようなシナリオを想定してみて、深堀りをしていきましょう。
瀬田川洗堰、琵琶湖疎水、宇治発電所導水路ともに、滋賀県民の反乱により、滋賀県が手中に収めるとともに、琵琶湖の水を止めることを強行する。
実際に、琵琶湖の水を止めるとどうなるのかということなのですが、滋賀県は悪夢を見ることになります。
つまり、水が琵琶湖からあふれ出し、洪水になってしまうのです。たちまち、平野部は水没してしまうことになります。
琵琶湖の水を止めることによって、京都や大阪に一定の打撃を与えることは可能ですが、残念ながら、滋賀県自身が大打撃を被ることになってしまうのです。
瀬田川洗堰全閉操作
ちなみに、過去には瀬田川洗堰の全閉操作により滋賀県が強く反発したこともあります。
琵琶湖を管理するのは滋賀県ですが、瀬田川洗堰を含めて瀬田川を管理するのは、前述の通り、国土交通省です。
台風により、琵琶湖の下流に被害が出ると国土交通省は考え、瀬田川洗堰を全閉操作をしたときがありました。
しかし、それにより、滋賀県が洪水になるリスクが増します。そのため、滋賀県は国土交通省に強く反発したという事例があります。
【結論】琵琶湖の水は止められない
結論として、琵琶湖の水を止めることは不可能です。
琵琶湖の水を止めると、滋賀県は洪水になります。
また、瀬田川洗堰は国土交通省、琵琶湖疎水は京都市が管理していることなどから、そもそも、琵琶湖の水を止めること自体不可能なのです。
正直申し上げて、滋賀県民の私は、「琵琶湖の水止めたろか」という言葉は好きではありません。
大切なことは、上流の滋賀県民と下流の京都府民や大阪府民が仲良くすることです。
同じ関西で、同じ琵琶湖に水を飲んでいるわけですから、お互い、思いやりを持つようにしましょう。